薬を否定しない鍼灸師が語る「がん」との向き合い方|緩和ケアとしての鍼灸とは?
「鍼灸師だから薬を否定しているんじゃないの?」
そう聞かれることがあります。

でも、私は薬を否定したことは一度もありません。
むしろ、薬は大切な治療の一部だと考えています。
ただし、大切なのは「どう使うか」。
薬にすべてを委ねるのではなく、必要な場面で正しく使うこと。
それが、身体にも心にもやさしい医療のあり方だと感じています。
10年間の病院勤務で学んだ、薬の光と影
私はかつて、総合病院のリハビリテーション科・東洋医学部門で10年間、西洋医学の現場に携わっていました。
医師、看護師、薬剤師とともに患者さんの回復を支えるなかで、薬の素晴らしさも、副作用や限界も見てきました。
この経験があるからこそ、薬の「恩恵」と「注意点」の両方を理解し、患者さんに伝えることができると自負しています。
母ががんと診断された日、家族としてできたこと
私が鍼灸師としてだけでなく、「家族」としてがんと向き合った出来事があります。
18年前、母が腎臓がんと診断されました。
抗がん剤治療が始まり、3か月間の入院後、介護が必要となりました。
介護が始まってすぐに感じたのは、本人だけでなく家族の負担も想像以上に大きいということです。
夜間の痛み、寝返りが打てない苦しさ、食事の介助…。
そのたびに、私たち家族も眠れず、体力も精神も削られていきました。
鍼灸師として、できることとできないこと
私は医師ではありません。
薬を処方することはできませんし、がんを根治させる治療もできません。
でも、東洋医学の視点から身体全体のバランスを整えることは得意です。
そして何より、痛みを和らげたり、心の緊張を緩めたり、
がんと闘う患者さんやご家族に寄り添う力を持っています。
告知を受けた日の母の姿が忘れられない
母ががんを告知された日、部屋を真っ暗にして、一日中泣いていました。
言葉では言い表せないほどの不安と恐怖が、全身を覆っていたのだと思います。
「どうして自分ががんに…」
「これから先、どうなるのか…」
がんを告知された患者さんが抱える精神的ダメージは、想像を超えるものです。
私は心理カウンセリングの資格を持っています。
だからこそ、体と心の両面からサポートすることに意味を感じています。

がんと向き合う現実:3人に1人ががんで亡くなる時代
国立がん研究センターの統計では、
1981年にがんで亡くなった方は約16万人、
20年後の2001年には約30万人に倍増。
今や、日本人の3人に1人ががんで亡くなると言われています。
この数字は今後さらに増えるとされており、
治療技術だけでなく、心と生活を支えるケアの必要性が高まっています。
ご家族ができること、そして“本当に聞きたいこと”
西洋医学では、治療の指針として検査データや薬の効果を重視します。
もちろん、それは大切なことです。
しかし、ご家族としては「それ以外にも知りたいこと」がたくさんあるのではないでしょうか。
- 自宅ではどんな過ごし方をすればいいのか
- どんなふうに声をかけたらいいのか
- 食事や生活で気をつけること
- 気持ちが落ち込んだときの支え方
こうした「日常の中でできること」を教えてくれる人が増えれば、
どれだけご家族の安心につながるか、日々実感しています。
緩和ケアとしての鍼灸という選択肢
鍼灸はがんを「治す」ことはできません。
でも、痛みや不安をやわらげる「緩和ケア」として非常に効果的な手段です。
副作用が少なく、体への負担が軽い鍼灸治療は、
抗がん剤や放射線治療の合間にも取り入れやすい方法です。
また、心理的な不安や孤独感にも、丁寧に寄り添っていけるのが鍼灸の魅力でもあります。
最後に:あなたにできることが、きっとある
がんは、患者さんだけの戦いではありません。
家族、周囲の人たちみんなで向き合っていくものです。
私は、そんなときに**「そっと支える存在」**でありたいと思っています。
薬を否定せず、医療を信じながら、
身体と心のバランスを取り戻すためのもう一つの手段として、
鍼灸という“ぬくもりのある医療”を届けていきたいと願っています。
【免責事項】
本記事は、筆者の医療従事経験および家族介護の体験をもとにした情報提供を目的としています。
掲載されている内容は、診断・治療・医療行為の代替ではなく、あくまで参考情報としてご利用ください。
がん治療に関しては、必ず主治医や専門医の指示を仰ぎながら判断してください。
鍼灸治療は「がんを治す」ものではなく、補完的なケア(緩和ケア)として活用するものです。
本記事で紹介した鍼灸や心理ケアは、個々の症状や体調によって効果が異なる場合があります。
【参考資料・出典】
- 国立がん研究センター「がん統計」(https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/index.html)
- 厚生労働省「がん対策推進基本計画」
- WHO(世界保健機関)「Palliative care(緩和ケア)」
- 日本緩和医療学会「緩和ケアに関するガイドライン」
