今日は、私が鍼灸師として経験した中でも特に印象深かった、パニック障害の患者さんとのエピソードをお話ししたいと思います。
この内容はご本人のご希望もあり、「ぜひホームページに載せてほしい」と言っていただいたものです。
同じようにパニック障害で苦しんでいる方の参考になればという想いで、ここに書かせていただきます。
病院での鍼灸治療から学んだこと
私は以前、病院で約10年間、鍼灸師として勤務していました。
病院という環境のおかげで、内科系・整形外科系・神経系など、実にさまざまな症状の方と向き合う機会に恵まれました。
特に午後の時間帯は、心と体のバランスを崩された患者さんが多く来られていました。
パニック障害や自律神経失調症、うつ症状など、いわゆる“メンタル不調”を抱えた方たちです。

思い出深い小林さん(仮名)との出会い
その中でも印象的だったのが、小林さん(仮名)という30代半ばの男性。
大手企業で働く彼は、動悸や息切れ、疲労感に悩まされ、いくつもの病院で検査を受けましたが、いつも「異常なし」と診断されていました。
それでも症状はどんどん悪化していき、ある夜、
「急に呼吸ができなくなり、胸が締め付けられる感覚に襲われた」
という発作を経験し、救急車で病院へ運ばれました。
この“息ができない・死ぬかもしれない”という恐怖は、パニック発作の典型的な症状です。
私がこれまで診た多くのパニック障害の患者さんも、「救急車を呼んだことがある」と話されていました。
しかし、救急搬送されても病院ではやはり「異常なし」。
身体には何の問題もないのに、苦しい症状だけが続く――
これがパニック障害のつらさです。
東洋医学との出会いで変化が始まった
そんな小林さんが、最終的に私の勤めていた病院を訪れたのは、
担当医から「東洋医学の治療も試してみては?」と提案されたのがきっかけでした。
最初の数回は鍼灸治療ではなく、カウンセリングに近い形でお話を聞く時間に。
パニック障害の方は、「胸が苦しい」「頭が痛い」「目がチカチカする」「脇が痛む」など、**原因がはっきりしない不快な症状(不定愁訴)**をいくつも抱えています。
そうした症状が現れるたびに、「また発作がくるのでは…」「倒れるかも」「死ぬかも」と不安が募ります。
私の治療では、そうした不快な症状をひとつずつ丁寧に取り除くことを大切にしています。
1つ症状が和らげば、患者さんも少し安心できます。
そして、また別の症状が出たら、それにも対応する。
そうやって少しずつ、心と体を整えていきます。

パニック障害と自律神経の関係
パニック障害は、交感神経が過剰に働いている状態ともいえます。
長時間の緊張やストレス、過労などが重なると、自律神経のバランスが崩れ、体が常に“戦闘モード”になってしまうのです。
鍼灸治療は、この交感神経の過緊張を緩め、副交感神経を優位にする働きがあります。
つまり、リラックス状態を作ることで、自然と症状も改善していくのです。
少しずつ現れた変化と希望
小林さんも治療を重ねるうちに、少しずつ症状が改善していきました。
それまでは、会社に行っても後頭部の頭痛や動悸で早退することが多かったのですが、
治療を続けるうちに、早退の頻度も減り、会社を休むことも少なくなってきました。
特に多くのパニック障害の方が訴えるのが、左脇の痛み。
この“なんとも言えない不快感”も、鍼灸でかなり和らいだと話してくれました。
乗り物への恐怖を乗り越えて
しかし、小林さんにはまだ大きな壁が残っていました。
それが、電車やバスに乗ること。
「急行電車に乗ると、駅と駅の間隔が長くて不安になる」
「乗っている最中に発作が起きたらどうしよう…」
このような不安があると、通勤すらままならなくなります。
でも、小林さんは諦めませんでした。
鍼灸治療を続けながら、少しずつ電車に挑戦していき、
ついにはこの乗り物の恐怖も見事に克服されました。
今では会社の昇進試験にもチャレンジされていて、仕事にも前向きに取り組んでおられるそうです。
最後に:パニック障害は、希望を持って治療できる症状です
パニック障害は「気のせい」や「甘え」ではありません。
明確に自律神経の乱れが関係している心と体の不調です。
そしてその乱れは、東洋医学の視点から、鍼灸治療によって整えることが可能です。
心と体はつながっています。
身体の症状を和らげることで、心にも余裕が生まれます。
そして、心が落ち着くと、体もラクになる。
私の治療方針は、「心と体、両方からアプローチすること」。
パニック障害で苦しんでいる方にとって、少しでも希望となるような存在でありたいと願っています。
